シックライフ・シックハウス症候群・化学物質過敏症・アレルギーなどに関する事柄について事務局よりお届けいたします。
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中日新聞不動産最新ニュースより
シックハウス症候群の健康被害は減少傾向にあるものの、なくなってはいない。厚生労働省がホルムアルデヒドなど化学物質13種類について室内濃度の指針値を決めたのは10年前。最近では新物質の問題も出ている。厚労省は来年にも新たな規制方針を打ち出す構えだが、シックハウス根絶は容易ではない。
続々と生み出される新化学物質
「メーカー側は無臭に近いものなど、いろいろと新しい化学物質を使っている。健康に害のないように、良かれと思ってのことだろうが、中には有害なものもあり、敏感な人は胸がむかむかするなどシックハウス症候群を誘発することもある」
財団法人「東京顕微鏡院」技術顧問の瀬戸博氏は、シックハウス症候群を発症するのは、化学物質に対する感受性が強い人だと指摘する。一般的に、男性よりも女性、高齢者よりも若年層の方が敏感に反応する傾向にあるという。
「正確な統計はないが、過去の調査からすると、感受性が強い人は全体の約3割で、化学物質に何らかの反応が出る。本来、危険なものに対処する、動物が持つ生存に必要な能力。七割の人は退化したとも、現代の環境に適応したとも言える」
厚労省は9月、有識者による「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」を開いた。同省化学物質安全対策室の担当者は「新物質の問題や、指針値以下なのに被害が出たなど、原因がよく分からない報告が増えている。有識者の意見をまとめ、来年から2年ぐらいかけて、現在の数値を見直すか、新物質の指針を定めるかを決める」と説明した。
瀬戸氏によると、厚労省の規制強化に対し、住宅メーカーや建材業者は「強化されたら、とてもやっていけない」と難色を示しているという。
別の問題もある。新物質の指針値ができると、メーカー側は規制に引っ掛からない新たな化学物質を考案し、大量に使用する可能性がある。新物質が次々と生み出されていくと、保健所などの検査機関の測定技術が、追い付かなくなるというのだ。
「空気中の化学物質の全体の濃度を規制すればよい」という考え方もあるが、瀬戸氏は「容易ではない」という。
厚労省は2000年に、1立方メートル当たり400マイクログラムという暫定目標値を定めたが、「毒性の疫学データに基づいたものではない。全体の濃度で規制するには科学的な根拠が必要だが、示せないだろう。技術が進歩していくのに、シックハウスはいまだに分からないことが多いことこそ問題だ」。
財団法人「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」に寄せられた住宅のシックハウスに関する相談件数は03年度がピークで、546件。その後は毎年、減り続けてきたが、ここ数年は100件前後で横ばい傾向にある。
指針値以下でも発症
岩手県宮古市で昨年六月、東日本大震災後に建てられた仮設住宅に入居した高齢の姉妹が「シンナーの臭いで、吐き気や頭痛、目まいがする」と訴えた。
シックハウス症候群の疑いと診断され、緊急輸入した日本農林規格(JAS)認定を受けていない合板が原因だったとみられている。
10年には衆参両院の新議員会館で、体調不良を訴える人が続出。建物は、はめ込み式のガラス窓が使われるなど、気密性が高いことが影響したようだが、政府は「厚労省の指針値以下だった」と説明した。
滋賀県の伊藤容子さん(49)は09年6月、倉庫を改造した事務所に勤務先が移転し、シックハウス症候群になった。「のどがいがいがし、鼻がひりひり。麻酔がかかったような感じだった」と言う。
約1200万円の損害賠償を求めて民事訴訟で係争中で、「死者が出ないと行政は動かないんですかね。規制を厳しくしないと、被害はまだまだ増えます」。
「大きな問題は、シックハウス症候群や化学物質過敏性の診断をできる医師が少ないことだ」と指摘するのはNPO法人「シックハウスを考える会」(大阪府四條畷(しじょうなわて)市)の上原裕之理事長だ。
規制が一定の効果を上げ、シックハウスが減っていることが悪く作用している面もある。職場や学校などで「化学物質が原因で気分が悪い」という訴えに以前は賛同者が少なくなかったが、最近は「あいつはおかしい」と仮病を疑われることもあるという。
「シックハウス症候群対策には、診断できる医師を育成し、患者にきちんとアドバイスをすることが必要です」と上原氏は強調。
加えて、新築物件でシックハウス症候群を訴えた人に、化学物質の少ない中古住宅を紹介する制度を提唱する。「お金をかけなくてもできることはある」
伝統「無添加住宅」に脚光
「脱化学物質」の住宅作りに向けた動きもある。住宅メーカー「無添加住宅」(兵庫県西宮市)は接着剤に昔ながらのコメ製ののりを使うなど、徹底している。秋田憲司社長は「価格は高くなるが、シックハウス対策だけでなく、耐久性にも優れている。サイディングボード(板状の外壁材)を貼った壁は30年も持たないが、漆喰(しっくい)なら50年ほっておいても大丈夫」と話す。
きっかけは1999年、シックハウスに悩む夫婦からの「化学物質を全く使わない家を建てて」という依頼だった。探してみると、化学物質を使わない建材は見つからず、自分たちで一から作ることに。話題を呼び、完全な「無添加」と、ほぼ化学物質を使わない住宅の2種類合わせて毎年、約300棟の注文があるという。
09年春、無添加住宅に依頼して、化学物質を使わない一戸建てを東京都八王子市に建てた看護師(42)は「新築マンションに入居して具合が悪くなった。測定ではホルムアルデヒドなど指針値以下だったが、シックハウス症候群と診断された。ここに引っ越してから、体調は徐々によくなり、今はほとんど回復した」。
秋田社長は言う。「海外でも、大昔から壁には漆喰が使われてきた。良いバクテリアと共生できるように、誰かが見つけ出した。化学物質の使用は簡単にできるが、昔から使われてきた技術には意味がある。それを伝統と呼ぶのだと思う」
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